Possibility

特別座談会:
〜Better Community へのチャレンジ〜

テーマ1 訪問看護の質と安全向上

看護の質と安全を、
どう「測る」か?
見える化することで、
見えてきたこと。

パネラー

伊藤 寿英

みんなのかかりつけ訪問看護ステーション
名古屋事業所 医療の質安全管理室 室長

津島市立看護専門学校 看護科を卒業後、大学病院で16年間勤務。社長の藤野とは旧知の仲であり、在宅医療の安全の重要性については互いに理解し、意見交換をしていた。高齢化が進む日本において、この推進がより求められると考え、デザインケアに入社を決める。17歳の時に角膜移植手術を受け、いつかは医療を通じて恩返しをしたいと看護師の道を選んだ。

田平 絵里

みんなのかかりつけ 訪問看護ステーション
東京事業所 ナースプラクティショナー

プライマリー・ケア学会を通じて藤野と知り合う。訪問看護についてのさまざまな議論を繰り返す中で、一緒に看護の未来を築いていきたいと一念発起。横浜のクリニックを退職し、デザインケアに入社する。国際医療福祉大学大学院 保険医療学科ナースプラクティショナー養成分野修了。6歳の時に読んだナイチンゲールの漫画自伝に感化されて看護師を志す。

ファシリテーター

藤野 泰平
株式会社デザインケア 代表取締役社⻑/看護師

課題

人生100年時代の到来が叫ばれる日本において、医療は従来の「治療」「延命」から、「予防」「クオリティ・オブ・ライフの充実」へとシフトが求められている。その中心を担うのが看護であり、とりわけ訪問(在宅)看護の重要性は今後さらに増していくだろう。ただ問題点や壁が多いのも事実。例えば、看護行為の質の問題。看護師ごとのスキルや知識のばらつきは、すなわち利用者様にとって看護サービスの質の不均衡に直結する。例えば、在宅看護の安全の問題。病院と異なりどうしても密室化、ブラックボックス化しがちな環境下で、どうお互いに安心安全で最適なサービスを実現できるのか?この「訪問看護における質と安全」という課題に対して、デザインケアが取り組み始めているソリューションについて議論を行った。

訪問看護の質と安全の向上。
その前に立ちはだかる2つの課題とは?

藤野 それでは早速、デザインケアの可能性を語り合う特別座談会を始めたいと思います。その初回のテーマは『訪問(在宅)看護の質と安全向上』。ということで本日は、医療の質・安全管理室室長である伊藤寿英さんとナースプラクティショナー(N P)の田平絵里さんにお越しいただきました。よろしくお願いします。まず伊藤さんにお聞きします。伊藤さんが「訪問看護における質と安全」というテーマに取り組もうとされた理由をお聞かせください。
伊藤 はい。私は前職、大学病院勤務だったんですが、当時から医療安全管理者として、患者さんに安心して医療サービスを受けていただけるよう院内の安全管理を行ってきました。最近では病院医療の安全に関する学会発表も盛んに行われるようになり、認知もノウハウも高まってはきているのですが、在宅ケアの安全管理についてはほとんど論文も出されていませんし、取り組み事例自体も聞かない。いったいどうなっているのかと。
藤野 私たちも含めて、これだけ訪問看護ステーションが全国に広がりつつあって、多くの看護師やセラピストが利用者様と向き合っているのに…
伊藤 そうなんです!悪いことも、そして良いことも、何も起こっていないことは絶対にない。看護の重要性がより一層増していくこれからの時代、自然と在宅での看護サービスに注目するようになりました。
藤野 で、伊藤さんはすぐに行動した。
伊藤 はい。まずは知ること。今、在宅看護を専門的に学ぶために博士課程に通っています。そして現場での実践。昔からの友人である藤野さん率いるデザインケアに転職することにしました(笑)。
藤野 いらっしゃいませ(笑)。さて、お待たせしました。田平さんにお聞きします。在宅での看護における問題点はどんなことでしょう?
田平 そうですね、誤解しないで欲しいのですが、最大の課題は「看護師の質」だと思っています。レベルが低いということではなくて、看護師によって保有するスキルや知識の差が激しく、結果、提供するサービスに大きなばらつきが出てしまうということが問題なのです。私はこの「看護師の質」を、全体として高い位置で安定させていきたいと思っています。
藤野 わかりました。もう少しお聞きします。田平さんは、そのために何が必要になってくるとお考えですか?
田平 はい。まずは物理的時間の確保が重要です。ケアが受けられない人を最小限にするためには訪問件数を上げる必要がありますが、ルート設計が悪くスタッフが焦ってしまうと、必然的にケアの質は落ちていく。事業効率とサービスの安定を、看護師の身になってどうバランスさせるのか?ここをしっかり確立させていくことがベースになると考えます。次はやはり教育ですね。在宅での看護は病院と違って、閉ざされた空間での対応となります。ものも揃っていませんし、聞く相手もいない場合が多い。だからこそ、個々の判断力や応用力、創意工夫が必要となってきます。これを磨くにはスキルを高め、幅広い知識を身につけていく他ありません。看護スタッフにとって教育の機会は不可欠。私はNPとしての知見を活かし、訪問看護での応用力育成勉強会を始めました。
藤野 ありがとうございます。伊藤さんにもお聞きします。在宅での看護における質、安全面での問題点を教えてください。
伊藤 田平さんもおっしゃっていましたが、訪問看護は外から見えづらく、関わる人数も少ないが故、個人完結的になりがちです。そのため全体として報告・共有する風土が根付いていない。そこが僕は一番の問題だと思っています。本来は24時間365日、利用者様の状態や看護行為について、その全てを把握しなければならないのですが、現状は徹底されていません。特にインシデント報告については自主性に任せてはいけない。ご家族の協力や入力の工数負荷、夜間待機の問題等、ボトルネックを一つひとつクリアしながら、業務プロセスの「見える化」を進めている最中です。
藤野 伊藤さん、田平さん、ありがとうございます。「訪問看護の質、安全向上」に向けての課題感についてお話しいただきました。次に、お二人が今、取り組まれていることについてお聞きしたいと思います。

今、二人は何に取り組んでいるのか?
キーワードは、報告風土と心不全管理

伊藤 では僕からいきましょう(笑)。先ほどもお話しした「データの見える化」に取り組んでいます。だんだんと今まで見えなかった訪問看護の業務プロセスが見えるようになってきました。わかりやすいところでは、インターフェイスや必要項目の見直し等システムの変更を行い、入力負荷を軽減しました。するといろいろなデータが、特にインシデント情報が集まり始めたんです。業務のどこが良くないのか、何を変えるべきなのか、そこを見極めるのは勘とか経験でなくデータだと信じています。情報を分析して、『問題はここだよね』と客観的に根拠を明示し、そこから業務の改善に着手する。そして徹底的にやるべきことをできるようにしていく。これが専門家としての僕の役割です。業務の質の観点で言えば、最近では数分の誤差で訪問時間が把握できるようになってきました。そして何より嬉しいのは、「主体的に報告し合う風土」が定着しつつあることです。
藤野 素晴らしいですね!逆にうまくいかない部分はありますか?
伊藤 あります。内服薬のセットミス改善のところ。薬情(薬剤情報提供書)を確認して薬を用意するのですが、肝心の情報ストックがない場合があります。
藤野 そこは悩ましい…。ただ、報告風土の醸成と具体的な改善の兆しが見えてきたことはとても大きな進歩です。田平さんはいかがですか?
田平 私は心不全の管理状況の見える化に着手しています。心不全を患った利用者様の管理表を作成し、一元管理のもとスタッフ全員が的確に状態を把握できるようにしました。この情報は利用者様やそのご家族にもご説明できるものだし、ドクターにもそのまま報告できるもの。つまり、誤解や齟齬のない正しい情報が全ての関係者に届けられるのです。
藤野 それはいいですね!その目的や効果についても教えてください。
田平 目的は、利用者様の再入院を防ぐことです。私たちが適切に関与することで、入院せずに在宅をできるだけ長くしていただきたいと思っています。またADLが維持されることで、普段行けないところにも行けたり、穏やかにご自宅で過ごせたりと、いわゆる利用者様の生きる喜びづくりにもつながっていきます。効果でいうと経済的側面が挙げられます。入院期間の延長がなくなれば、それだけ保険外の負担が減っていきますから。
藤野 俯瞰すれば、日本の医療コストを下げることにつながります。
田平 その通りだと思います。あともう一つ、待機者の業務の質向上にも取り組んでいます。必要な情報提供を行い、待機判断のばらつきを平準化できればと考えています。伊藤さんのおっしゃるように、きちんと待機業務の記録を残し、報告するフローも組んでいます。これによって科学的で効率的な待機業務シフトの体制構築にもつながっていけばと考えています。

訪問看護の質と安全を守る、
ディファクト・スタンダードを創りたい!

藤野 いよいよ最後の質問です。看護や医療の質、安全に関して今後やっていきたいことは何ですか?伊藤さんからお願いします。
伊藤 まずはしっかり、24時間起こったことを報告できる体制を確立することですね。インシデントも、いい取り組みも、全部ひっくるめた「業務の見える化」を実現します。ただ、デザインケアだけのものにするのではなく、オープン化できればと思っています。同業の訪問看護企業でも、地元の調剤薬局でも、地域の病院でも情報交換と活用ができる仕組みづくり。これを全国に広げ、地域の暮らしに安心安全を届けることが最終目標です。
藤野 訪問看護の安全向上に関するディファクト・スタンダードづくり!スケールが大きいですね。田平さんはいかがですか?
田平 看護全体の質の底上げ。やはりこれを何としてでもやり遂げたいです。看護師のスキル、知識のばらつきを揃えて高めていく。そして全人的に利用者様をケアしていく。伊藤さん同様、当社だけに留めることなく地域全体、日本全体を巻き込んで推進していきたいと思っています。これが私の実現したい「Better Community」です。
藤野 頼もしい!さて、お二人からそれぞれ「見える化」という言葉が出てきましたが、今まで曖昧だったものや見えない価値を「測る」というのは、未来に向けて非常に大事な観点です。最後に。私たちデザインケアは、他にも糖尿病予防プログラムの推進や精神疾患者の社会復帰・自立支援など、生きる力と喜びを広く人と地域に届けるべく、新たな取り組みを行っていきます。伊藤さん田平さんも、ぜひ一緒に進めていきましょう。