MBAホルダーが訪問看護に。「新しい地域連携『神戸モデル』を広げたい」(社員インタビュー#21)

訪問看護ステーション神戸

2022.10.13


こんにちは、みんなのかかりつけ訪問看護ステーション・広報の野田(看護師)です。今回はみんなのかかりつけの関西地区1号店である神戸店(兵庫県神戸市兵庫区)の管理者インタビュー記事をお届けします。


登場するのは、2022年4月に入職し、翌月5月1日の神戸店オープンから所長をつとめる松原健治さんです。大学院でMBA(経営学修士)を取得した松原さんに、なぜかかりつけに入職したのか、かかりつけの魅力は何か、話を聞きました。

これまでの経歴を教えてください


小学校6年生の時、阪神淡路大震災を経験したことをきっかけに「人のためになる仕事、人を助けられる仕事につきたい」と思い、医療職に興味を持ちました。その中で看護師を選んだのは、人と深く接することができると思ったからです。


高校卒業後、金沢大学で看護を学び、地元の神戸大学病院へ就職しました。脳神経外科・神経内科病棟、ICU、消化器内科病棟を経験し、副看護師長として管理業務を行いました。そこで18年間働き、かかりつけに入職しました。


大学病院の最後の2年間は、働きながら大学院に通い、2021年にMBAを取得しました。

訪問看護師になろうと思ったきっかけを教えてください


最初に配属された病棟で、退院支援に取り組んだことがきっかけです。脳・神経疾患による麻痺や意識レベル低下がある方が、どうしたら自宅に帰ることができるか一生懸命考えていました。


でも、自宅の環境が整っていなかったり、周りのサポートが得られなかったりすると、自宅に帰れずに転院を選ぶ方も多くいました。「家に帰りたい」という願いを叶えられなかったことが辛かったですね。


その経験から、「家に帰りたい人を在宅で支える側の看護師になりたい」と思うようになりました。それが看護師3年目のことです。


短い時間でしか関われない「病院」という場所に、難しさや限界を感じていたことも理由です。病院にいる患者さんは、抗がん剤や手術、人工呼吸器の装着、気管切開など、いろいろな意思決定をします。


病院スタッフは、意思決定支援のために多職種で最善のサポートをします。それでも、病院では入院時からの関わりしかなく、しかも関わる時間も長くありません。


その短い時間の中で、その方の人生観や死生観、大切にしているもの、ご家族への想いなどを探り、残りの人生をどう過ごしたいかを聞くのは難しいと感じていました。


多くの方の看取りに関わる中で、徐々に平坦になっていく心電図の波形を見ながら「私はこの人に何をしてあげられただろう」、「人生の最期の瞬間に立ち会うのが私で良かったのか」と責任を感じながら、その人の人生と向き合ってきました。


病院で働く中で「在宅で過ごす人の人生を支えたい」「もっとじっくり、その人の人生に向き合いたい」という思いは強くなっていきました。

すぐに訪問看護師になろうとは思わなかったのですか?


実は、看護師3年目で訪問看護に興味を持った時、自分でステーションを立ち上げようとしていました。もともと自分から動いて何かをするのが好きなので、既存のステーションに入ることは考えませんでした。


ただ、何もわからなかったので、看護部長に相談に行きました。今思えば怖いもの知らずですが、アポも取らず看護部長室にいきなりノックして入っていきました(笑)。


当時の看護部長は「看護の世界は広い。もっといろんな世界を見て、経験して、自分の看護観を磨きなさい。そして色んな人にも会いなさい。そこからでも決して遅くはないよ」というアドバイスをくれました。


その言葉を受け、すぐにステーションを立ち上げるのではなく、いずれ訪問看護師になることを見すえて大学病院でキャリアを積んでいくと決めました。

MBAを取得しようと思った理由を教えてください


大学病院で副看護師長になり、5年ほど経った時のことです。40歳が近づいてきて、40代、50代をどう過ごすのか、今後のキャリアをどうするのかに悩みました。


このまま大学病院に骨を埋めるのか、それとも訪問看護ステーションを開設するのかという葛藤です。


大学病院で多くの経験をしてきましたが、それは「将来ステーションを開設するため」という想いが常にありました。人生を通して一番やりたいことは訪問看護でしたし、看護師3年目で抱いた「ステーションを開設したい」という想いも変わりませんでした。


看護師歴も15年くらいになっていて、多くの知識や技術を身に付けてきましたし、そろそろ機は熟したのではないかと思えるタイミングでもありました。


ただ、大学病院に残って看護部長を目指すにしろ、訪問看護ステーションを立ち上げるにしろ、人や組織を動かし、最高の成果を出すために、経営学の知識をつけたいと思ったんです。


看護師は看護の勉強はしますが、組織管理や経営論を学ぶ機会はあまりありません。経営学を学んだ看護師になることは、私の強みになると思いました。看護部長を目指すにしろ、ステーションを立ち上げるにしろ、経営の勉強は必ず活かされます。


看護とは違った人たちとのつながりを作りたかった、というのも理由です。何かを成し遂げるのに、人脈は絶対必要ですし、いろいろな人と出会うことで私自身が成長できるという期待もありました。


看護部長を目指すのかステーションを立ち上げるのかは、その時点ではまだ決まっていませんでした。大学院で2年間学ぶ中で、おのずと答えが出るだろう、という考えで、進学を決意しました。

▲大学院での2年間で多くのことを学び、大切な同期とも出会えました。

大学院ではどんなことを学びましたか?


兵庫県立大学社会科学研究科の医療マネージメントコースに進み、2年間でヘルスケアマネジメント修士というMBAの学位を取得しました。


主に学んだ内容は、病院やクリニック、介護福祉施設などの経営についてです。具体的には、経営戦略や組織論、人材育成、コスト管理、マーケティングなどを学んできました。


このコースの同期には、病院長や事務長といった病院経営に関わる役職の方が多くいて、さまざまな人とのつながりができました。


一緒に授業を受けていた「介護マネージメントコース」を専攻する人の中には、訪問看護ステーションやヘルパーステーションなど、在宅福祉サービス事業の経営者もいました。そういった方たちと話をする中で、私の在宅医療への想いはどんどん強くなっていきましたね。


大学院1年目が終わるころには、卒業と同時に大学病院を辞めて、ステーションを立ち上げると決めていました。

かかりつけに入職した経緯を教えてください


MBAを取得し大学院を卒業する年に、代表の藤野さんからかかりつけに誘われたことがきっかけです。藤野さんとは看護連盟の活動でつながりがあり、10年来の付き合いです。


病院を辞めて訪問看護ステーションを立ち上げることは決めていましたが、自分で立ち上げるのがベストかどうかはずっと悩んでいました。訪問看護を立ち上げても、経営を軌道に乗せて収入を安定化させるまでに、1年かかるのか2年かかるのかはわかりません。


もし軌道に乗らなかった時は、借金を背負うことになります。私の妻は専業主婦で、家庭の収入源は私だけです。2人の子どもがまだ小さいこともあり、お金のリスクを避けたい気持ちは強くありました。


ただ、そのリスクを負ってでもチャレンジしたいという気持ちもありました。そんな時、藤野さんから連絡が来ました。立ち上げに悩んでいたので、かかりつけを見学してみました。

かかりつけを見学した印象はどうでしたか?


現場を見て、かかりつけの組織風土にすごく魅力を感じました。本当に「看護」を実践していると思いましたね。


看護をするモチベーションは、人それぞれです。業務として淡々と看護をする人もいれば、お金のためだという人もいます。正解があるわけではありませんが、かかりつけのスタッフは、よいケアを届けることを一生懸命考えていました。


「ご利用者さまの希望は何か」、「どうすれば叶えられるか」に一番力を入れているのを感じました。しかも、それが藤野さんや管理職だけでなく、スタッフひとりひとりにちゃんと浸透していることが現場から伝わってきました。


ちゃんとひとりひとりに浸透させようという、藤野さんや管理者の想いも見えました。ここなら自分自身も成長できるし、こんな組織をもっと全国に広めたいなと思いましたね。

かかりつけに入職した決め手は何ですか?


仲間が多いことですね、これに尽きます。


一人での立ち上げを考えていることを藤野さんに話した時、「ゼロから始めるのと、仲間と一緒にやるのでは、スピード感が違う」と言われました。


なるほど、と思いましたね。かかりつけにはそれまでの8年間で積み上げてきたものがありますが、私はゼロからのスタートです。


私が一人で立ち上げると、小さい地域の中で、少人数のご利用者さまだけにしかケアを提供できないかもしれません。これは藤野さんがかかりつけをゼロから立ち上げる時、痛感していたことだと思います。


私は看護師3年目から「在宅にいる人を支えたい」という一心でずっとやってきました。でも私がこだわるのは、必ずしも「自分の力だけでやる」ということではありません。


「一人でも多くの方に最高のケアを届ける」ということです。これはかかりつけのビジョンとも一致しています。


かかりつけには、素晴らしい考え方や価値観、看護観を持っている仲間がいます。自分一人でやることにこだわらず、同じビジョンを共にする仲間と一緒に、より多くの人を支えることを大事にしたいと思いました。


仲間と一緒に、神戸にかかりつけのビジョン・ミッション・バリューを広げる、そして全国に広げていく。この大きな夢を、リアルに思い描くことができました。


これが入職の決め手です。

▲教育研修部の坂口さん(左)と、神戸店立ち上げの大切な仲間たち

かかりつけへ入職すると決めた時、周りはどんな反応でしたか?


大学院の同期や教員から「なんで自分でやらないの?」と驚かれました。経営者の知り合いにも「自分で立ち上げたほうが大きくできるし、稼げるよ」、「自分のやりたいようにできる」と言われました。


投資家の方からは、訪問看護ステーションの立ち上げのお誘いもありました。年収1000万円の給与で、もしうまくいかなくても借金を背負うこともないという条件でした。


立ち上げ1年目からこんな条件で、飛びつきたくなる気持ちもありました。でも、私はただお金稼ぎだけをしたいわけではないんです。


「一人でも多くの方に最高のケアを届ける」ことが、私が一番大事にする想いです。その想いを実現するために、かかりつけを選びました。


また、かかりつけでもっと成長したいという気持ちもあります。もともと僕は成長し続けたいと思う性格なんです。


一人で立ち上げても成長できると思いますが、仲間から得られる刺激は本当に大きいと思っています。かかりつけの仲間と一緒に成長しながら、全国にかかりつけのビジョンを広げていく。そうなったら、きっとお金以上に得られるものがあるんだろうなと思っています。

訪問看護への不安はありましたか?


入職後、すぐに神戸店の立ち上げを任せてもらえることになりました。オープニングスタッフ3人とも訪問看護未経験という状況でしたので、ご利用者さまと地域に受け入れてもらえるか、本当に不安でしたね。


でも、絶対やってやるという自信もありました。それはこれまでの経験があったからです。


大学病院でさまざまな部署で働き、副師長という立場ではありますが、組織マネージャーを経験し、MBAで経営戦略の分析やノウハウも学んできました。「これだけやってきた人材はそうそうおらんやろ!」という自意識過剰な考えです(笑)。


また、やれないこと、うまくいかないことには必ずその原因があります。人なのか、物なのか、自社の内部にあるのか、外部にあるのか、など、その原因を分析する方法はMBAでしっかり学んできました。


仮にスタートがうまくいかなくても、原因を分析して「絶対うまくいかせてやる!」という気持ちもありましたね。

MBAの学位はかかりつけでどんな役に立っていますか?


神戸店を立ち上げる時に、神戸で展開する店舗の場所や訪問エリア、ご挨拶に伺う連携先の場所など、成功する要因を考えました。


立ち上げのスタートダッシュとして、想定以上のご依頼をいただきました。これはひとえに、オープニングスタッフの頑張りがあったからです。また、立ち上げ前に他店舗で1カ月間研修させてもらった、会社のフォロー体制のおかげでもあります。


MBAで学んだ、分析ツールを使った経営判断も役に立っていると感じます。


10月からは新しく2名のスタッフが加わり、人も組織も確実に成長できています。


経営の本質は、組織を永続的に発展させることです。経営を考える時、ゴーイングコンサーン (Going Concern)という言葉があります。これは企業が将来にわたり存続し、事業を継続していく前提にあることをいいます。


会社組織は、できた瞬間から地域社会の人々のためのものです。決して自分たちのためのものではありませんが、いかに安定的に組織を永続的に継続させるかという点で、収益性は非常に重要です。


収益が上がることで、新しい投資が可能となり、ビジョン実現により一歩近づけます。ただし、収益性だけを追求すると絶対にうまくいきません。ある研究結果で「収益性は高いレベルのケアの質と量があるからこそ生まれるもの」だと明らかになっています。


ケアの質と量のレベルが低ければ、収益性は生まれません。高いレベルのケアの質と量を維持しつつ収益性をあげていくという、高い視座を持つことが重要です。


MBAの学位を取得したからといって、すぐに成果が出るものでもありません。時には「MBAを取ったから何?」と言われることもあります。MBAの取得はスタートラインに過ぎません。


かかりつけの中で、そして地域の方々にどう役に立てるか、私自身がこれから証明していく必要があると感じています。

地元・神戸への出店の想いを教えてください


私は神戸の町で、在宅医療をもっと高い次元に引き上げたいと思っています。


日本では、病院と在宅では、提供できる医療・ケアのレベルに差があります。病院に行ったほうが高い医療・ケアが受けられ、在宅では限界がある状況です。


チーム医療に関しても、同じです。病院は一つの組織なので連携が取りやすい。地域には多くの医療専門職がいますが、病院と同じようなレベルでの連携はなかなかできていません。


私は在宅医療の連携をもっと高め、在宅で提供できる医療・ケアのレベルを、病院と同じくらいにしたいと思っています。


家に居ながら病院と同じ医療・ケアを受けられるようになれば、「家に帰る」選択ができる人がもっと増えるでしょう。多くの人が安心して慣れ親しんだ家で暮らせるようになると思います。


すでにフランスには在宅入院制度(HAD)という仕組みがあり、自宅にいながら病院と同じ質・スピードで医療・ケアを受けられます。私はこの日本版を作りたいと思っています。他の地域にも展開していけるよう、まずは神戸でモデルとなる取り組みを始めます。


在宅医療の各専門職が、高い次元で連携する。そして最高のケアを提供するために一丸となり、最大限の力を発揮する。そうすれば、入院の時以上のスピードと質で、在宅で生活する人を支えられるはずです。


私はこの新しい地域連携モデルを「神戸モデル」と名付けました。「神戸モデル」の構築が、神戸店が目指すことです。


ただ、そのためには一緒に協力し合える仲間が必要です。仲間は、かかりつけの中だけでなく、地域のケアマネージャー、医師、薬剤師、管理栄養士、セラピストといった多職種も全てです。


地域の多職種と連携し、「神戸でこれだけのことをやってやろうぜ!」と言い合える仲間を作りたいですね。

▲「BE KOBE」は、新しいことにチャレンジする神戸らしさのシンボルです。チャレンジし続けるため、神戸店の目標の1つに掲げました。

どんな事業所にしたいですか?


神戸店は、10月からスタッフが1人増えて、看護師4人体制になりました!


現スタッフ3人にも、これから神戸店に来てくれる未来の仲間たちにも、成長できる場を提供したいと思っています。


定年まで一緒に働いてくれたら嬉しいですが、仮に5年後、10年後に違う職場に行ったとしても「神戸店の経験で成長できた」、「社会に通じる自分を作ってくれた」と感じてほしいと思っています。


「スタッフには成功体験をいっぱいさせよう」という言葉が使われることがありますが、成功体験という言い方をすると、反対に失敗体験も生まれてしまいます。


スタッフが失敗したと感じた時に、そのままにしておくとそれは失敗体験になります。でも、しっかりフォローされて、適切なフィードバックがもらえたら、それは失敗ではなく、成功体験への一歩目になります。


神戸店では必ずフォローとフィードバックをし、失敗体験にならないようにします。でも、成功体験という言い方もしません。ご利用者様にケアを提供して、私たち自身もケアされる。私はこれを「心が震えるような体験」だと感じています。


スタッフに「心が震えるような体験」をたくさんしてほしいというのが、私の管理者としての想いです。


みんなで多くの体験をして、成長していける日本一の職場にしたいですね。

かかりつけに興味がある方へ一言


かかりつけの最大の魅力は、やはり仲間がいることです。そして、立ち上げから8年間で作り上げてきた、かかりつけの組織風土があります。


最高のケアを届けるという考えはもちろん、ビジョン・ミッション・バリュー、感謝のシェアや批判しないグランドルールなど、どの職場でもマネができないほど高いレベルまで作り上げられていると感じます。


この組織風土の中で、一人ではできないことを、信頼しあえる仲間たちと一緒に目指していける。管理者を目指す方には、この喜びをぜひ感じてほしいですね。


個人としても、この組織にいることで得られるものは数えきれません。成長や癒し、明日も頑張ろうと思える活力、仲間との一体感など、多くのものを得られます。


でもこういったものは、かかりつけの中に身を置いてみないと経験できません。まずは一度、かかりつけを見てほしいですね。


訪問看護やかかりつけに興味がある方は、まず自分が「何をしたいのか」という想いを大事にしてほしいと思います。自分がやりたいことを周囲から反対されたり、茨の道のように感じたり、気持ちが折れそうになる時もあるかもしれません。


それでも自分の信念が揺らがなければ、惑わされることなく意思を突き通せると思っています。臆することなく、色んなことにチャレンジをしていってほしいですね。


松原さん、ありがとうございました!
インタビュー:広報担当・野田 (看護師)


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