訪問看護で「聞き書き」に取り組んでる理由、そのきっかけをお話します

みんなのかかりつけの取り組み

2021.02.19

かかりつけ「聞き書き」

「聞き書き」を始めたきっかけ


株式会社デザインケア・みんなのかかりつけ訪問看護ステーション 教育研修部の坂口です。私たちは、医療的な「生きる力のケア」と内面的な「生きる希望のケア」の両方を大切にしています。「聞き書き」は、ご利用者様やご家族の気持ちを言葉として引き出し、文字に書き起こすという行為なのですが、「生きる希望」に繋がる大切なケア行為と考えて、訪問スタッフ全員で取り組んでいます。

これまで2回、聞き書きの事例をご紹介しましたが、今回は、「聞き書き」という言葉を知る前に、私が「聞き書き」の意味に気づいた、原体験についてお話したいと思います。

※聞き書きの内容は、個人が特定されないようアレンジしていることがあります

日記の代筆だった「聞き書き」


3年前のことです。化学療法 (抗がん剤による治療) を受けていたご利用者さま(Cさま)がいらっしゃいました。化学療法は、薬の種類によって変わりますが、点滴を1~4週間に1回、3日間連続などの方法で投与します。


Cさまは、その度に入退院を繰り返し、気持ちがさまざま変化していました。例えば、治療しない選択をいつする方が良いのか、悩んでいたりしていました。そして、生きることについて考え、人生を振り返りながら、これから大切にしていきたいことなどを私に話してくれました。それを私は日記を代筆するような形で記録していました。

その一方で、Cさまは主治医へ自分の気持ちをうまく伝えれずにいました。


「こういうとき(訪問)の時は、リラックスして話せるんだけど、先生の前だと緊張してしまってね」と。これからの人生について主治医へどう切り出していいか分からずに過ごされていました。


どうにかできないかと考えた私は、書き貯めた日記を連携先へ共有できないかと考えました。それも、ただの報告書になるのではなく、Cさまの話した言葉をそのまま書き止め、語り手が目の前で話しているかのような文章としてまとめる必要があると思いました。


それは、報告書の作成というより、ご本人さまの気持ちを聞き、言葉という文章に代えて手紙に綴るような感覚でした。実際の文章を次にご紹介します。

坂口から連携先への報告書


〇〇(連携先)さま

入院に向けてCさまの気持ちを整理しましたので共有させていただきます。

・ ○月○日、 余命宣告を受けて抗癌剤を受けなければ余命が1年もないと説明を受けました。亡くなる前には寝たきりになると思っています。今、歩けていますが、どのように私はなっていくのか予想がつかないので怖い気持ちになるときがあります。どんな症状から始まっていくのでしょうか。

・○月○日、肩と腰が痛くなり、鎮痛剤を飲みはじめました。ピンピンコロリと逝くことを私は望んでいます。例えば、亡くなる前日まで元気に歩いていた祖父のように命を終えたいと思っています。

(再開された抗癌剤への想い)
・想定していたよりも早く抗癌剤を再開しなければならなくなりました。少しでも病気の進行が遅らせることができればいいなと思っています。もし、それができたのなら、気温が暖かくなった頃に外出したいです。電車に乗って遠い場所まで行けることができるでしょうか。外出する楽しみができるでしょうか。最後まで私は歩いていたいです。

(これからの人生について)
・みんな、残りの人生をどう過ごしたいかと聞いてきますが、考える余裕はあまりありません。治療の効果次第で考えていけたらと思っています。何もせず、ボーッとして生きている人生は面白くないです。ボーッとして生きているなんて価値がないと思っています。いろんな場所に行って綺麗な景色見て、五感で命を感じることが楽しく生きている意味になると思っています。山なんて行ってごらんよ。生きている気持ちになるんだよ。

以上ご確認よろしくお願いいたします。 坂口

だれでも気持ちをうまく伝えられるわけではない


そして、Cさまの気持ちを「言葉」として文章に綴り、定期受診や入院する度に病院へ持参するのが定番となりました。Cさまからは、「主治医や病院の看護師さんらへ自分の気持ちが伝えれるようになった」と喜ばれました。

病院の地域連携室からは、これまで何も言われなかったので分からなかった気持ちの変化がスタッフ間で共有しやすくなった、と感謝されました。

その後、Cさまは「私を自宅で看取って欲しい。自宅で死にたい」と気持ちを伝えてくれました。実は、このことは私にとって大変な驚きでした。なぜなら、Cさまには家族や親族がいなかったのです。

「ひとり暮らしで自宅で死ねることは贅沢なことだね。自分の希望を叶えるのに保険を使えて、こうやって専門職の人たちが手伝ってくれるんだから」。

だれでも気持ちをうまく伝えられるわけではありません。医療者の立場で「なんでも言ってくださいね」と伝えても、限られた時間の中で医療者へ本心を伝えるということは、逆の立場になれば容易ではないことが想像できます。

Cさまとの時間を通して、私の「聞き書き」は、Cさまの気持ちを言葉に代えて手紙に綴るという「ケア」になったと感じました。ときにはCさまが胸の内に秘めた想いをすくい取ることにもなった。人生翻訳家のような気分でした。

言葉を文字にすることが、気持ちを整理することに繋がり、それが、人生の重要な選択するときにきっと役に立つと信じています。

(イメージカットは、Cさまが好きだったラッコのイラストです)


<過去の「聞き書き」記事>
訪問看護で「聞き書き」やってます
聞き書き(其の弐)
『訪問看護と介護』1月号で教育研修部が紹介されました


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